人を、クリエイターを動かすテクノロジーを使った
クリエイティブ

  • 福島

    今回のテーマは「広告とテクノロジー」。皆さんがテクノロジーを使った世の中の企画で興味を持ったもの、好きな事例って何かありますか?

  • 吉永

    私は、ブラジルのペットショップチェーンの「Pet-Commerce」というオンラインサービス。顔認証技術とAIを組み合わせて、愛犬がどんなおもちゃに興味を持っているかを読み取って、関⼼がありそうなおもちゃを買えるというものです。犬も欲しいおもちゃが届くし、飼い主も無駄にならない、ショップも売り上げが立つ。全員が幸せになっているのがいいなと。テクノロジーによって有益でいい時間が⽣まれているのがいいなと思いました。

  • 澤邊

    やっぱりペットに喜んでもらえるものをあげたいという人が増えているのも時代性。20年前ならそこまでじゃなかった。ペットのことを家族として考える。広告業界のアワードとか見てるとそういう時代性が変遷しているのがよく分かりますよね。

  • 服部

    私が気になったのは2023年カンヌのクリエイティブ・コマース部門で受賞した「The Subconscious Order」というフードデリバリーのサービスです。人はオンラインでメニューを選ぶことに年間約132時間も費やしているそうで、メニューの選択肢の多さから、脳は間違った判断をすることがあるようです。しかし、このサービスはアイトラッキングの技術とAIで、自分の潜在意識が欲しているものが分かるんですって。自分が食べたいものと一致するかもしれないし、一致しなくてもそれはそれでおもしろいし試してみたいですね。あと、よく人とお店に行くとき「何でもいいよ」って言う人いるじゃないですか。そういう人が試すと何が出てくるのかなと思ってて(笑)。

  • 澤邊

    よく「何でもいいよ」とか言っておきながら「じゃあイタリアンは?」って聞くと、「イタリアンはちょっとなぁ… 」っていうとき ありますよね(笑)。何でもいいって言ったじゃん!って。それ、AIなら怒らないでいくらでも提案してくれるからいいですね。

  • 福島

    僕は、2010年のものですけど、佐藤雅彦さんが「"これも自分と認めざるをえない"展」で発表された「指紋の池」。画像認識で指紋を認証して、液晶ディスプレイに自分の指紋がオタマジャクシみたいにひょこひょこ出てきて、いろんな人の指紋といっしょに泳ぐんです。

  • 澤邊

    それってアートなんですか?

  • 福島

    ええ。自分の体の一部が自分から離れて自動で生まれるのがおもしろいなと。それにインスパイアされて、仕事でピンクリボンの案件を担当したとき、自分の声をスマホに吹き込むと音声解析をしてオリジナルのピンクリボンアートみたいなものを吐き出すのを作って。それをシェアすると寄付につながるというプロモーションをやっていたんですよ。「指紋の池」をきっかけに発想が生まれ、別のテクノロジーと結びついて新たなクリエイティブができました。

  • 澤邊

    なるほどね。自分の体といえば、街中に捨てられたガムからその人の遺伝子を抽出して、顔を復元したポスターが数年前、香港で話題になりましたよね。

  • 吉永

    「捨てたのはきっとこんな人!」っていうやつですよね。

  • 澤邊

    自分が捨てたものから判ってしまうんだ、という気づきをインパクトをもって与えた。ただガム捨てるなよっていうメッセージからクリエイティブを掘っているのがおもしろいなと。遺伝子解析のテクノロジーが進んで手軽にできるようになって、もしかしたら捨てたガムから遺伝子を抽出して子どもがつくれちゃうかも?みたいな時代に来てるのかと思うと、ちょっとヒヤッとさせられますね。上手に脅かしている。

  • 広告は生きる問いを投げかける

  • 澤邊

    結局突き詰めると、広告も遺伝子から復元した顔のポスターのように、社会に問題を提起するようなアートっぽくなると思っていて。

  • 服部

    アートですか?

  • 澤邊

    そう。アートは課題解決ではなく、課題の提示。我々がやってきているのは、売れるためのパッケージとか、何かを解決するためのデザインという領域ですけど。よりアート志向というか、それ何かの役に立つんですかって言われたら何の役に立たないかもしれないけど、さっきの「指紋の池」みたいに何か感じさせる、気づきを与えるっていうメッセージが、広告にも求められてくるのかなと思いますね。

  • 例えば先日、渋谷であるデザインアワードの審査員をしたんですけど、そこで大賞になった話で。科学者の学術論文って、実はおもしろいのがたくさんあるのに、我々はほとんど知らないですよね。データベースで検索しないと見られない論文をもっと表に出したいと、渋谷で広告活動をしている人がいるんです。その一つの事例で、ネズミにヘッドホン付けて爆音でロックを聞かせるとヘッドバンギングする研究結果があるんですよ。それをアニメーションにしてサイネージにしたら子どもたちがおもしろい!って言って。「僕も科学やってみたい」と思ってもらえたり。科学との接点をそうしてコミュニケーションするのはおもしろいなと思って大賞に推しました。これもある種、アート的な活動だなと。

  • 福島

    先ほどの佐藤さんも、デザインとアートの違いを定義していて。デザインは「いかに生きるか」で、アートは「なぜ生きるのか」を問いかけるものなんじゃないかと話をされていました。

  • 澤邊

    その分け方もおもしろいですね。

  • 福島

    いかに生きるかは手段、形にするのがデザインで。なぜ生きるかは気づき、発見、問いが出てくる。そこは今の話とリンクするなと思いました。

  • 澤邊

    やっぱり我々が問いを作っていって、その中で企業や社会とかと接点を作っていくという方向に、広告の仕事は向かうのではないでしょうか。