KEYWORD : #挑戦
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武田
今後、広告クリエイティブは何に挑戦していったらいいのでしょうか。ちょっと唐突ですが、対談も最後のほうになってきたので聞かせてください。クリエイティブという言葉自体が何かの挑戦や記録更新にも聞こえますが、広く世の中の課題解決を図るということなんでしょうか。社会を良くしていこう、発展させていこうというのは分かります。多田さんは、そういうことに興味ありますか?
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多田
「モーレツからビューティフルへ」(1970年、富士ゼロックス)ってありましたけど。そういう社会に対するアンチテーゼは、これからもないこともないだろうけど、そこはあまり考えてないかな。
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武田
では、多田さんが挑戦したいものってどんなことですか?
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多田
また映画も作ったら楽しいだろうし、小説も書いてみたいと思いますよ。小説は自己表現としては面白いだろうなと。ストーリーだけで勝負するっていうのは。たぶん、今ある小説の形とか見たことあるものを書いてもしょうがないから、新しいものができれば楽しいだろうけど。でも、そんなに一人で作る世界が好きなのかはクエスチョンがあって。やっぱりCMが好きだし。CMって団体競技で、チーム戦で1年に試合がいっぱいある。そこで一個一個の試合にチームで頑張る、喜ぶっていう。映画だと一本作って完成するまで1~2年がかりで向き合うから、やっぱり飽きちゃうだろうな。今、面白いと思ったものが2年後にできてもっていう。でもCMなら今の心持ちをすぐ見せられる。それって他にないなと。一方はウェットで、もう一方ではギャグとかもできたり、同時にいくつも作れる。とはいえ広告という中で人がまだ見てないとか、新しいものは見つけにくくはなっているけど。どんどん難しくなってきている。
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武田
これ、どこかで見たっていうCMやデザインっていっぱいありますよね。先ほどお話したとおり、事例を求めることや、マーケティングだけを見つめると、そうなるのかもしれません。
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多田
つまらないものが分かってくる。経験を積むと、ここってあまり面白くないぞって分かっちゃう。畑がだんだん小さく見えてくるっていう。そこをなんとか広くしたいなと。それはどこにあるんだろうと考える。それが自分の中の「挑戦」ですかね。
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多田
「CMがドラマや映画に勝る点があるとしたら」を言うと、キホン、CMは表現物としてはやっぱり負けてます。純粋な表現物ではない、制約もあるし。広告って表現物とは違いますけどね、お仕事だから。純粋な作家が創るものじゃない。でも、ひとつだけ勝ち目があるとすると、テレビもドラマも自分で見にいっているものじゃないですか。どんなものかって面白そうだから見る。けど、CMはこっちが全く準備してないときに突然目にするもの。不意打ちですよね。だからこそ心に入ってくるものがある。意外とリアルに人が思っていること、考えているところにバーンと当たる可能性があって。そこが勝機なのかなと。不意を突いて人の心のスイッチをつけることができるか。映画とかに比べると、そこが武器になるんだろうなって思う。
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武田
なるほど。でも逆に言うと、見たいと思って見にきているわけではないからこそ、その人の心を掴む難しさもありま すよね?
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多田
がゆえに、逆に転んだときが大きい。無関心なのに「えっ!?」って思わせたらすごい。求めていない、期待していないのに感動させるのはすごいこと。人はいい本を読みたいと思って読む。いい曲を聴きたいと思って聴く。でもCMは違うじゃない。構えていない分、引っかかったら強い。
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武田
CMは負けているとおっしゃいますが、例えば、多田さんのペプシ『桃太郎』のCMのストーリーも俳優も映像も、映画を超えていると感じています。長編を何度も見返しましたし、引っかかりすぎで強烈でした。かっこいいの一言です。
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多田
1分が限界でしたけどね。