希望を抱く人と企業のために

  • 土屋

    今、シェアリングの考え方が広まりつつありますが、それも社会がどんどん変わってきている一面と言えるでしょう。広告も人々の志向やニーズの変化についていかなければなりませんが、そのスピードが速いんですね。弊社は創業100周年を迎えるわけですが、これから広告はどう動くべきか。とてもこれからの100年を考えることはできませんが、少なくとも明日を考えることはできる。そうして人と社会とともに歩むことを模索する日々です。石山さんは最近の時代の変化について何か感じたことはありますか?

  • 石山

    私が提唱するシェアリングエコノミーは本来、性善説にあります。地方の無人販売のような誰かがとっていっちゃうかもしれないリスクはあるかもしれないけど、それ以上に「人は盗みをしないよね」を信じて成り立っている世界を望んでいる。そういう方向性になったらいいなと思いますが、とても難しい時代にあると思います。何を信頼したらいいのか。連続強盗や詐欺事件があったり、戦争もある。簡単に人やものを信じられない社会に進んでいるような気がして、そこは個人的にとても危惧しています。

  • 土屋

    確かに、コロナも経験して経済の低迷もあって、何を信じたらいいのか疑心暗鬼になっているところはあるかもしれないですね。ただ、私自身も性善説に立ちたいと思いますし、社会の幸せを願う企業の広告作りには力を注ぎたい。きれいごとじゃ済まないと言われようが、そこは信じたいし、こんな社会だからこそ理想は持ち続けるべきだとは思っています。

  • 石山

    先ほど、私の世代はコスパ世代って言いましたけど、まわりの人たちを見て感じるのは、なにもお得かどうかだけを見ているんじゃなくて、みんなパーパスやビジョンというものを重視しているんですよね。これからの社会ってどうなっていくんだろうと不安を抱えつつも、こうあったらいいなという社会を描く希望は捨てていない。そこに対して、広告はコスパがいいかだけでなく、その背景にある、社会をどう変えたいとか、社会の中でどうあり続けたいとか、企業のステートメントを伝えられる。企業の価値観を共有する1つのツールが広告だと思っているので、そこに対しての希望は感じますね。それは個人の力では難しいし、やはり広告ならムーブメントみたいなことを起こせるのではと思っています。

  • 多様化する人々の価値観に広告はどう向き合うか

  • 土屋

    よく、「広告は社会を映す鏡」と言われます。それも当然なことで、広告人は世の中の流れを見て、消費動向を掴んだ上で広告を作るからこそ、そのように言われるわけです。でも、今の時代は人々の考え方も好みも多様化しているわけで、広告の向き合い方も難しくなっています。

  • 石山

    確かに多様化していますね。今、若い人に支持されつつある価値観として、「みんなが知っている」よりも「ワタシだけが知っている」に重きを置くようになってきていると思います。昔だったら何でも、ランキング1位のお店に人が殺到していたけど、今はランクにもネットにも載っていない、自分しか知らない住所不詳のお店が価値あるものとされていたり。それと、タピオカって数年前にすごい流行っていて、私が小中学生の頃、第1弾の流行りがありましたけど、そのブームは10年を経て全然違うものになっていて。昔だったら10店あったら1位のところに全部集中していたけど、最近はタピオカを販売するお店がたくさんあっても人が分散していますよね。根底のタピオカ文化というものはInstagramで1つの世界ができていて、みんなで好んでいる感覚はあるけど、どのブランドかどうかはバラバラでいいみたいな。

  • 土屋

    ブームにいる一人でありながら、それぞれの「好き」の主張がある。

  • 石山

    そうですね、流行っている方向性とかビジョンは共有しながらも、そこに自分のオリジナリティが乗っかってくるような、そんな消費の世界観があるように感じます。なので広告においても、企業のビジョンやステートメントみたいなものを共有させながら、あなただけに伝えているとか、自分だけのストーリーに思えるかをミックスさせて仕掛けていけたら、受け入れられていくのかなと漠然と思いますね。

  • 土屋

    ある時期からみんなマニアックな雑誌とか、自分のスタイルはこうだからこういうものしか買わないよ、みたいな感じが強くなってきた。ウチに大学を卒業した息子がいるんですけど、彼は昭和のスタイルが気に入っていて。彼らからすると、古いものだけど他のカルチャー、ファッションと同じように捉えて自分なりに取り入れている。そういうところは多様性なんですよね。

  • 石山

    多様性という文化を共有しているけど、その上にあるのはいろいろあっていい、ということかもしれないですね。

  • 土屋

    それぞれが分散しても、全体的なブームのところを広告会社が作れたらとは思いますが、得てしてインサイトが入ってないと、ずれたことをやることになる。

  • 石山

    AIやデジタルの力で、もっと分散した広告みたいなものを考えられるのか。そこが求められることなんだろうな、と思います。
    デジタルで思い出しましたが、今、いち消費者として困っているのはフェイクの情報。これ、見抜けないです! YouTube広告にも有象無象に出ていて、陰謀論みたいなものから詐欺投資系とか普通に広告として出ていますよね。そうしたものに対してどうやって広告会社が向き合うか。そこを安心させてくれるといいな、というのが勝手な要望としてあります。

  • 土屋

    今まで、旧来のマスメディアだと審査・考査があり、歯止めがあったんですが、これだけデジタルが広がると網掛けが難しくなっているんだと思います。メディアや広告会社の信用を失うことになるので、そこも課題ですね。