サステナビリティ 業種別事例 2023.01.13
持続可能性の課題先進地 離島SDGsアクションの実践 ~カルビー 『miino』 粟島「一人娘」プロジェクト 立ち上げ編~

目次
「離島SDGsアクション」とは
カルビーとの出会い
「一人娘」にカルビーが惚れ込んだ理由
直面した担い手不足の問題
島と企業、お互いが良い関係であり続けること

カルビーが「一人娘」大豆にどのようにして出会い農業支援プログラムを実施するまでに至ったのか。今回は持続可能性の課題先進地である「離島SDGsアクション」のご紹介とともにカルビーが粟島の「一人娘」に出会うまでをご紹介いたします。

「離島SDGsアクション」とは

当社独自の取り組み「離島SDGsアクション」は、企業のもつ価値と島の社会課題を組み合わせ、SDGsの17のゴール、169のターゲットに貢献するビジネスアイデアを開発し、実践するプログラムです。離島地域は人口減少が日本全体のおよそ倍の速さで進行し、産業の衰退も進んでいます。国内でも特に課題の先進地であるため、離島の課題が将来の日本全体の課題になるとも言われています。しかし立地条件やリソースが限られている島だけでは解決できない課題も多く、島外企業とのパートナーシップが不可欠です。当社は企業のミッションと離島の社会課題を組み合わせることで、社会価値を生み出しながら経済的価値も両立させる新規事業開発に取り組んでいます。

カルビーとの出会い

カルビーといえばだれもが連想するのが「ポテトチップス」や「じゃがいも」ですが、私たちとカルビーの出会いのきっかけは全く違う「離島」でした。「離島SDGsアクション」で何かご一緒できることがないかとお声がけしたのがきっかけでした。

すると、カルビーの担当者から思いがけず「ちょうど、日本中で豆を探しているんです。島に珍しい豆とかありませんか?」というご相談をいただきました。私たちは離島支援に繋がる可能性を信じ、日本中の島で育てられているさまざまな希少な豆の情報をリサーチし、取り寄せるとともに、豆が育てられている島の課題やその支援のストーリーを添えてご提案しました。

「一人娘」にカルビーが惚れ込んだ理由

日本の島々から取り寄せた豆をカルビーのご担当者様へお届けし、ご試食いただいたところ、「粟島の一人娘、これでいきたいと思います!」と嬉しい声とともにご連絡をいただきました。

ご担当者様のコメントより

~下茹でをして試食した豆の中からダントツに美味しくて味わい深かったのが粟島産の大豆「一人娘」でした。その後、商品開発メンバーにも試作を作ってもらったのですが、作っている最中からお豆腐屋さんのような香りにつられて他の開発者たちまでが自然と集まってきました。風味と香りがダントツによく、かなり高評価だったことが「一人娘」を採用するきっかけでした。~

その数粒の豆との出会いが日本海に浮かぶ小さな島と大手スナックメーカーのカルビーが出会い、商品開発を目指していくプロジェクトが動き始める第一歩でした。それは粟島や「一人娘」が直面している様々な課題にどのように取り組んでいくか模索の日々の始まりでもありました。

直面した担い手不足の問題

粟島産「一人娘」の商品化に向けたプロジェクトの準備が始まりました。

カルビーが「一人娘」の商品開発と流通を担って島のみなさんと、日本中のカルビーファンのみなさんのハブとなり新たなつながりを生み出すことができないか。とはいえその時点で我々にわかっていたのは「一人娘」がびっくりするくらいに美味しいということだけ。まずは現地に行って「一人娘」の栽培地、収穫量、生産者などイチから学ばなくてはいけませんでした。

離島支援に取り組む際によく言われるのが、企業が島にやってきても実証実験だけして去っていったり、採算が合わなくなるとすぐに撤退をしてしまうという問題です。その度に島の人たちは心を痛めていました。そのため、カルビーのような大きな企業がいきなり島にやってきて何事か?と思われないためにも慎重に進めることが大切です。島の人に会い、話を聞き、事情を理解し、一緒に取り組みたいことを丁寧に説明する。長く続く信頼関係を築くためにまずは島のみなさんへの説明会を実施しました。突然にもかかわらず、村長や役場職員、「一人娘」保存会、生産農家など多くの方に集まっていただき「一人娘プロジェクト」の構想を説明しました。それまで栽培候補地を探すことなど比較的スムーズに運んでいたのですが、その説明会で生産者のひとりから厳しいご意見を頂戴して初めて我々は深刻な課題に気づいたのでした。

「誰が生産するの?来年も同じ生産者がいるとは限らない状況なのよ!」

この言葉に我々は返す言葉が見つかりませんでした。生産者の多くは平均80歳近いお婆さんたち、全ての作業はほぼ手作業、生産者は十数名で深刻な後継者不足、限られた島の畑地、栽培管理はだれがするのか…

年々生産量が減っていくなか、生産を続けてください、増やしてくださいというお願いだけではどうしようもない現実がそこにはありました。なるべく島に負担をかけず、みんなが共感できる方法を真剣に考えなければならないことに気づかされた言葉でした。

このおどろくほど美味しくて、この島でしかほぼ生産されていない「一人娘」という豆を絶やしてはならないこと、多くの人に粟島のことを知ってもらい興味をもってもらうこと、そしていつか一人娘の生産に後継者が現れること、このプロジェクトの使命が決まりました。

島と企業、お互いが良い関係であり続けること

一過性の取り組みではなく持続可能な取り組みにするためには、島の生産者の負担にならないことが第一であり、関係者の誰かに無理をさせない関係であり続けることが大切です。生産支援ができる体制とバックアップが必要なためさまざまな団体にも協力を仰ぎました。粟島浦村役場、粟島観光協会、新潟県村上地域振興局、新潟日報社など「一人娘プロジェクト」のもつ可能性の説明と協力支援のお願いを重ねました。もちろんそれぞれの立場でできること、できないことがあります。しかし全ての皆さんがプロジェクトへ共感していただき、できることに取り組んでくれました。

今回のようなプロジェクトの遂行で一番大切なもの、それはなんでしょうか。予算、タイミング、知見、話題性などさまざま要因はありますが、やはり一番大切なのは「人」だと思います。そんなキーマンの一人が、粟島観光協会事務局長の松浦さんです。今回、カルビーのご担当者の熱い思いを信じ、心強い思いで一緒にプロジェクトを遂行していこうと立ち上がってくれました。「一人娘大豆を絶やしたくない」「漁業しか産業がない」「観光需要もふやしていきたい」このような理由と、なによりも粟島生まれ、粟島育ち、粟島で職に就き、粟島で家族と暮らしている、粟島をだれよりも愛している方です。粟島のことで知らないことがないのではないかというくらい何でも教えてくれます。そんな方だからこそ、なんとか粟島を盛り上げていきたいという熱い思いをもっていただき、我々の想いと合致することができました。さぁ、役者が揃ったところでついにプロジェクトが動き始めます。(つづく)

次回は「一人娘大豆の栽培~農業支援プログラムの模索」のご紹介

カルビー担当者より

カルビー株式会社マーケティング本部 CX戦略チーム 藤東亮輔

カルビーはもちろん国内でも事例が少ない離島での持続可能な農業モデルへの挑戦、はじめは我々に本当にできるのか?と不安の方が大きかったです。

度々現地を訪れ、人に触れ、想いを伝え続ける事で、様々な出会いやアイデアが次々に出てき、そして少しずつ応援者が増えてきており、いつしか不安がワクワクへと変わってきました。

たった数粒の豆からはじまったこの物語、この先どんなストーリーを描いていくのか、ご期待ください。

一人娘プロジェクトメンバーより

朝日広告社 戦略ビジネスチーム クリエイティブディレクター 井上征一郎

日本の有人離島は418島。400島あれば400通り多様な文化や豊かさがあり、一方で400通りの課題もあります。粟島「一人娘」はそんなずっと残しておきたい島の宝のひとつです。島が大好きという理由だけで「離島SDGsアクション」を立ち上げ、不安だらけのまま企画や実行に携わってきました。でもいま「一人娘」プロジェクトに取り組みながらワクワクだらけです。まだ残り417島とたくさんの島人との出会いが待っています。みなさんも一緒に島に行きワクワクしませんか?

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著者プロフィール

プロフェッショナルズアカウントエグゼクティブ吉川 さやか(よしかわ さやか)

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