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プロジェクト

「カルビー miino(ミーノ) 粟島一人娘」
プロジェクト
カルビー株式会社

掲載情報は、2024年1月時点の情報です。

「商品を売る」から「物語と体験を共創する」
持続可能なビジネスモデルづくり。

カルビー株式会社は豆まるごとのおいしさを、いつでもどこでも楽しめるスナック菓子「miino(ミーノ)」のブランディング施策として、新潟県の離島・粟島(あわしま)で『カルビー miino(ミーノ) 粟島一人娘プロジェクト』に取り組んでいる。
日本海にぽつりと浮かぶ粟島は人口約325人、日本で4番目に人口が少ない自治体(粟島浦村)で、高齢化率が最も高い離島のひとつと言われている。粟島でひっそりと受け継がれてきた「一人娘」は他人に教えたくないほどおいしいことから「いうなよ」という別名を持つほどおいしい在来種の青大豆。しかしいまはもう粟島と長野県の一部にしか残っていないため種の存続が危ぶまれていた。おいしくて希少な豆を絶やさないために、カルビー社員、カルビーファン、島民、大学生などみんなで共創する持続可能なビジネスモデルづくりにASAKOメンバーが取り組んでいる。

INOUE・S
クリエイティブディレクター

YOSHIKAWA・S
営業

MATSUURA・T
SPプランナー

初めて訪れた島で、突きつけられた現実。

日本には約400島の有人離島があり、それぞれ多様な文化や自然、人と人が支え合うコミュニティなど豊かさが溢れている。一方で、400島あれば400通りの課題が存在する持続可能性の課題先進地とも言われている。離島の豊かさに魅せられていたクリエイティブディレクターINOUEはNPOとともに離島地域の活性化と持続可能性にライフワークとして取り組んでいた。2020年、カルビー担当の営業YOSHIKAWAはSDGs施策の自主プロモートとして離島地域の活性化を提案した際にカルビーの担当者から「豆を探しているんですが、島においしい豆はありませんか?」という相談を受けた。

「日本には有人離島が416もあるのですが、島ならではの豆がないか北海道から沖縄まで徹底的に調べました。ただ珍しい豆を探すだけではなく、その島や豆の栽培に関わる独自の課題も調べて、当時のカルビーのマーケティングにおけるビジョンのひとつ(Be Local)の実現につながるSDGsアクションのストーリーとともに提案しました。最終的にその中から絞りこまれた5、6種類の豆を取り寄せ、カルビーさんに送りました」(INOUE・S)

「カルビー社内の商品企画会議で全国から取り寄せた豆を試食するなかで、ひとつだけみんながずっと手を伸ばし続ける豆がありました。『この豆めちゃくちゃ美味しくない!?』って。それが粟島産の在来種『一人娘』でした。試しに商品開発のラボで揚げているとまるでお豆腐屋さんのような香ばしい匂いが辺りに漂って、隣の開発チームまでもが『何してるの?』と集まってきたそうです。それでこの豆を商品化できないか、ということになりました」(YOSHIKAWA・S)

「その頃私はまだプロジェクトに参加していませんでしたが、最初に二人がカルビーさんと一緒に粟島へ行って、島の役場や生産者さんに向けて説明会を開いたんですよね。そこで島の厳しい現実に、突き当たったとか…」(MATSUURA・T)

「はい、その時点で『一人娘』を栽培している生産者は十数軒まで減っていて、ほとんどが80歳前後のおばあさん。栽培作業はすべて手作業、完全無農薬で手間もかかります。耕作できる畑も限られていて、自分たちで味噌にしたり食べたりする自家消費以外は、観光協会がお土産品にする程度の量しか収穫できませんでした。
島の方からも『目の前に高齢化という課題があって、生産者がどんどん減っていくなか、誰が豆を育てるのか?島のお婆さんたちに無理はさせられないし、今年の生産者が来年居るとも限らないんです』と厳しい現実を伝えられました…」(INOUE・S)

「想像以上に状況は深刻でした。その時、カルビーさんの上層部の方もいらっしゃっていたのですが『これだけポテンシャルの高い豆だから、しっかりとこの島と向き合わなければいけない』とおっしゃっていただけました。ここで断念するのではなく、こんなにおいしくて希少な『一人娘』を絶やしてはいけない!とみんなの覚悟が決まりました」(YOSHIKAWA・S)

共感してくれるみんなで、「物語」を共創していく。

育てる畑もない、人もいない。島のみなさんとの関係をどう深めていくか。サステナブルな農業モデルづくりをASAKOのメンバーはどう実現していったのだろう。

「そこから島に通って関係構築から始めました。島の北部に以前は畑だった耕作放棄地があることを教えてもらい、まずはその一部を開墾し、カルビーの社員さんと我々でテスト栽培を行いました。私たちの想いに賛同していただいた粟島観光協会の呼びかけで、島の生産者にもお手伝いしていただきながら種まきから雑草とり、収穫までとりあえずできました。そこから収穫した豆の品質管理や土壌検査、サンプル商品づくりや賞味期限のテストなど商品化までの厳しい条件のクリアや体制構築など今までの仕事とは全く違う経験で試行錯誤を重ねました。そうして次の年も耕作放棄地をさらに開墾して栽培面積を広げていきました」(INOUE・S)

「それが2022年のことですね。参加するカルビー社員のみなさんの人数も増え、秋には収穫ツアーの募集があり、僕はその事務局運営を担当しました。カルビーファンの方々やプロジェクトに共感いただけた方が全国各地から駆けつけてくれて! みなさん“自分もなんとか力になりたい”そんな想いがあるようでした。“次もまたぜひ参加したい”という熱い人もたくさんいましたね」(MATSUURA・T)

「実はこのツアー、みなさん自費で来ていただいてるんですよ! 凄くないですか? 島で受け継がれてきた希少な『一人娘』を絶やしたくないというカルビーさんや私たちの想いに共感いただき、みんなで自分ごととして持続可能な栽培と商品化に取り組む。そのストーリーをみんなで描けたことが嬉しかったですね」(YOSHIKAWA・S)

「ツアーでは栽培支援だけではなく、島民のみなさんとの交流会もあるんですが、いろいろと島の郷土料理を作ってくれる島のお婆さんと参加者のふれあいも温かいですよね。お婆さんたちも、これが生きがいだって言ってくれています」(MATSUURA・T)

「今年は新潟大学から講義に招かれ、そこから新たな広がりも生まれています。これは『第3回 新潟SDGsアワード』で『miino(ミーノ)粟島一人娘プロジェクト』が大賞を授賞したことでオファーがありました。カルビーさんと一緒に「SDGs演習」の講義に登壇して、学生たちに離島地域の課題を起点にしたSDGsアクションの実践や粟島でのプロジェクトの取り組みを紹介しました。それをきっかけに学生たちにも粟島へ来て、島の豊かさと課題を肌で感じながら栽培支援活動に取り組んでもらいました。みんなが一人娘のストーリーの登場人物になる経験をきっかけに、さまざまな地域の持つ価値を感じるとともに、その地の課題に向き合ってもらうきっかけになればと思います」(INOUE・S)

仕事は自分の「好き」の気持ちから生まれる。

このプロジェクトの一連の取り組みについては、背景やいろいろな経緯などを隠すことなく、プロセスのすべてがカルビーのホームページで発信されている。そこから他では真似のできない価値(プロセスエコノミー)が生まれるとともに、栽培支援ツアーには全国から多くのカルビーファンが参加して、熱狂的なファンが生まれている。

「起点になったのはカルビーさんの当時のマーケティングにおけるビジョンのひとつ、“Be Local 日本の『耕す』を新しくする”です。このビジョンを実現するための具体的なアクションが今回のプロジェクトであり、これまでみんなで紡いできたストーリーはどこにも真似のできないものです。ブランドの目指す姿を具体化して、価値を高めていくこと、持続可能とすることが、私たちASAKOメンバーの思いでした」(INOUE・S)

「“商品を売る”から、“物語と体験を共創する”へビジネスモデルをシフトしたわけですよね。だから唯一無二のブランディングができていると思います。今まであまりこちらからの情報発信はしていませんでしたが、新聞やテレビなど、取り組みに共感した各メディアも発信してくれました」(YOSHIKAWA・S)

「この取り組みはカルビーやmiinoブランドの長期的なファンづくりにつながれば成功だと思っています。新潟SDGsアワードで大賞もいただけましたし、2023年のACC TOKYO CREATIVITY AWARDSでデザイン部門のファイナリストにもなれました。いや〜でも広告会社に入ってまさか畑で草取りや収穫をするとは思わなかった。ホント新しい体験でした(笑)。こうして新しい仕事をつくっていけるのも、ASAKOだからできたことなんだと思います」(MATSUURA・T)

「企業のビジネスモデルを社会課題と絡めていかにデザインするか。そんな視点で仕事をするようになってから、これまで以上にモチベーションが上がってきたのを感じますね」(YOSHIKAWA・S)

「私はもともと離島の持つ多様性や豊かさが大好きで、貢献したいと思っていました。そこから仕事につながり、少しでも島に貢献できていることが素直に嬉しいです。広告の仕事は思っている以上に幅が広いので、自分のビジョンを持つこと、好きな気持ちを生かして仕事にしていくことが大事だと思います」(INOUE・S)

参考:「カルビー miino(ミーノ) 粟島一人娘」プロジェクト HP
https://www.calbee.co.jp/hitorimusume/